Motorcycle's Geometry 2
前頁ではフロント周りの構成・動きについて見てみた。フロント周りに比べリヤ周りの構成は単純なものである。
フレーム後端もしくはエンジン後部にスイングアームを支持するピボットがあり、ピボットを中心にスイングアームは上下方向に弧を画くような動きをするだけである。スイングアームの末端にはリヤタイヤが取り付けられエンジンのドライブスプロケットからチェーンを通じリヤホイールに取り付けられたドリブンスプロケットに駆動力を伝えバイクを前進させる。
☆スイングアーム周りの動き
バイクはアクセルを開けると前進する。別に普段は意識もしていないで乗っているだろうが、このとき荷重はバイクの後部に掛かってくる。荷重移動によりフロントフォークは伸び、後ろ下がりの車体姿勢になるはずだ。しかし、実際のリヤサスペンションは縮もうとせず踏ん張ろうとしているのだ。ドライブスプロケットが引っ張るチェーンの張力はドリブンスプロケットのほうの径が大きいため前下がりのものとなりスイングアームを開こうとする力を生む。アームが開けば後輪は路面に押し付けられる。スイングアームが開いてしまえばシートが持ち上げられるテールリフトが起きてしまうが、実際には後ろに荷重が掛かってくることになるから釣り合いが取れて縮めようとするチカラに対し踏ん張るような動きとなる。これがアンチスクワット効果と呼ばれているものだ。
アンチスクワット

仮にアンチスクワットがなければ加速時にバイクは腰砕けのようになる。リヤが縮むとするならば、スイングアームは閉じる方向へ動く。路面からタイヤを引き離そうとする動きになるわけだから加速してもサスペンションの動きがロックされるところまで行かないと路面への接地圧は高まらないことになってしまう。幸い実際のバイクではこのようなことにはならない。アクセルを開ければタイヤは路面に押し付けられるように作られているのだ。ただ、コーナリングでGが掛かりスイングアームが沈み込んだり、そもそもスプリングが弱く、乗車時の沈み込みが大きかったりしてスイングアームが水平に近い角度だったりすると路面を蹴る力は弱くなり、立ち上がりでアクセルを開けるとリヤが踏ん張らなくなる印象を強く受けることがある。
アクセル・オフの状態は逆の作用が起こる。
前に荷重が移動するから、フロントフォークは縮む。リヤサスは伸びようとし、スイングアームを開こうとする。
スイングアームが開くということはシートが持ち上がりテールリフトを起こすことになる。しかし、これに対し抵抗し、リヤサスペンションを縮めスイングアームを閉じようとする力が実際には働いているのだ。リフトすることに対する抵抗力、これをアンチリフト効果と呼んでいる。

ここで勘違いしやすいのはリヤが沈んで荷重がかかり後輪の接地圧が高まるというような理解である。
リヤサスペンションが沈むんだから後輪に荷重が掛かるんでしょ?という考えもわからないではない。
しかしながらアクセル・オフで前方に荷重が移動しているうえに、しかもアンチリフト効果はスイングアームを閉じようとする動きである。スイングアームを開いてタイヤを路面に押し付けるような動きであれば接地圧は高まるが、スイングアームを開こうとする動きに抵抗しようとする動きなのだから、せいぜい前方への荷重移動を抑えようというレベルだ。
☆リヤブレーキとリヤ周りの動き
リヤブレーキを効かせた時のスイングアームの動きも興味深い。
リヤブレーキをかけるリヤタイヤの回転慣性によりブレーキキャリパーが回転方向に引っ張られる。キャリパーはスイングアームに取り付けられているわけだからスイングアームも回転方向に引っ張り込まれる。この場合スイングアームは閉じる方向に動くからリヤサスは沈み込む。こうしてみてみると、アクセル・オフのときとリヤブレーキをかけたときにスイングアームは同じ動きをすることがわかるはずだ。ブレーキングのときにリヤブレーキをフロントよりも先にかけてやると、減速Gによる前のめりになる姿勢変化を抑える効果がある。といってもスポーツライディングなどでハードなブレーキングの時などは急激な減速Gにより後輪への接地荷重が減るから、リヤブレーキをかけっぱなしにすると後輪がホッピングしたり、ロックしやすくなってしまう。こうなってはかえって姿勢が乱れてしまうから、ほどほどにしなくてはならない。
孔子も「過ぎたるは猶及ばざるが如し」といっている。
減速目的ではなくてもリヤブレーキを使うことはよくある。
コーナリングでアクセルを開けるときに雨などで路面状態が不安定なときにリヤブレーキをかけたままアクセルを開けたりする。これはブレーキを引きずることでアクセルを開けたときのショックを和らげることが目的だ。また、だらだらとした半径の大きなコーナーなんかできっちりアクセルを開け切れずにサスがフワついてしまったりする場合があるが、こういうときにもアクセルを開けたままリヤブレーキを軽く当てることでリヤサスを軽く縮めフワつきを抑えてやることもできる。
このようにリヤ周りの動きを覚えておくことはライディングにとっても役立ったりするのだ。
☆ホイールベースとスイングアームの長さ
ホイールベース。軸間距離とも言う。
バイクのホイールベースはだいたい1400mm前後といったところ。50ccクラスだとかなり短かったりするが、スポーツバイクであれば250〜1000cc超までだいたいこの範囲でおさまってるはず。というか、この範囲におさめている。100mmも150mmも違うことはない。
一般にショートホイールベースのほうが旋回性がよく、反対にロングホイールベースのバイクは安定性指向である。
ホイールベースが短ければ短いほど良いというものではない。加速や減速のたびに大きな姿勢変化を誘発して操縦性が不安定になってしまうということも考えられるからだ。とはいっても、実際は短くしようにもエンジンやらサスペンションやらをその中に収めなくてはいけないわけで、色々詰め込むと長くなってしまうホイールベースをいかにして短くするかってことに躍起になっているのが現実だと思う。
ホイールベースを短くしようとしてもスイングアームを短くすることはまずない。最近のバイクでは同じホイールベースでもスイングアームの長さを出来るだけ稼ぐようにしている。スイングアームが長いとストロークしたときの角度変化が小さく、極端に姿勢が崩れたりしにくい。穏やかな特性にするのにはロングスイングアームが良いとされている。
じゃあ、ドコを短くするかって言うと、スイングアームピボットから前の部分である。前後長の短いエンジンを開発したり、出来るだけエンジンを前輪に近づけてステアリングヘッドとスイングアームピボット間を詰めようとしている。
エンジン位置を前進させたくても、並列エンジンでは排気管の取り回しの問題があり、V型エンジンではどうしてもエンジンの前後長が長くなる。前傾したV型エンジンではプラグの長さを短くしてまでエンジンを前に積もうとしている。
このエンジンを前に積むという考え方は、スイングアーム長を稼ぐためだけではなく、フロント周りの安定性の確保という面でもメリットがある。クイックな操縦性を求めてキャスター角を立てていくと、トレールが減って復元性が少なくなり、フロントの安定性が損なわれてくる。そこでエンジンを前に積んでやることで前輪への荷重を増やして安定性を高めてやろうという考え方だ。
エンジンを前に積んで前輪分布荷重を稼ぎ、なおかつステアリングヘッドとスイングアームピボット間を詰めることによってスイングアームを短くすることなく理想のホイールベース内に収めてやる。これが最近のバイクの傾向らしい。
・・・・とバイクの構成はこんなものである。数字や記号を追っかけてアタマを痛める必要はない。
自分でも、こういうふうに作られていて、こういうふうに動くんだと、なんとなく思っているだけだ。
バイクの特性を引き出してやるなんてエラそうには考えていない。
バイクの自然な動きをライダーが邪魔しないようにしよう。せいぜいその程度の考えだ。
それだけでも、怖い思いをせずにライディングを楽しめるようになるものである。
前のページに戻る トップページへ